和名倉山




笹原にでたら、一面霧。
でも真っ白ではなくて薄明るくなったり、また暗くなったりしていた。薄明るくなったむこうに白くて丸い太陽が見えてきた。
太陽なのに満月みたいに見える。





もうちょっと待っていたらきっと晴れるだろうな。
数少ない、登ったことのある東北の山を思い出した。あの時も、しばらく待ってたら青空が覗いたんだよなぁ。こういう時は慌てて先を急がない方がいいんだよな。
道端に座ってしばらく霧がフワフワ動くのを眺めた。





山頂は…というか、山頂付近だけ鬱蒼とした原生林が残っていた。
さっきのカラマツの幼木が密集している明るい斜面から一転。山頂標識は、その原生林の中にぽつんと立っていた。
なんだか落ち着くなぁ。
明るい道より、こういう暗くてジメッとした針葉樹林帯の方が落ち着くなんて、奥秩父っぽい体質になっているのが自分でもおかしかった。
針葉樹の間の細い道を、目の前を小さい鳥がヒュンヒュン渡って行くのも、三宝山あたりの雰囲気に似ている…。
もともとは全山こんな雰囲気だったんだろうなあ。









広い笹原、狭い尾根、開けたところ、稚樹の繁るところ、針葉樹の暗いところ、乾いたところ、湿っぽいところ…。
いろんな表情が次々に現れる。
地形も、すんなり山頂にたどり着くのではなくて、大波小波みたいにいくつも隆起を乗り越えないと山頂に立てない。
和名倉山は、見た目どおりに大きくて複雑な地形の塊だった。





人の手が入っているところ、入っていないところ、自然のまんまのところ、勝手に自然が回復しようとしているところ。
山と人が関わってきたり関わらなくなったりしてきた、いろんな面があちこちに見えて、それも面白いなあと思った。





2016/5/15〜5/16
[1日目]甲武信小屋〜雁坂峠〜将監峠
[2日目]将監峠〜和名倉山〜秩父湖
(単独)