林道で



山の中で、きれいだな、美しいな、と思う風景に出くわすと、死んじゃった人のことをふいに思い出す。
思い出したら急に、うわーんと泣きたい気持ちになる。
いつもは忘れてるのに、そういう気持ちは瞬間的にやってくる。

きっと小屋のみんなが、いつかどこかで、急にそんな気持ちになって思い出しているのかもな。
それって結構すごいことだ。
いなくなった人のことをみんながふいに思い出すって、すごいことだ。


今まで「死ぬ」ってどういうことかよく分かっていなかった。
でも、あの朝の雪道の光景は、何度も通った道なのに、やけに随分ときれいに見えて、
「あ、そうか。『死ぬ』って、もうこんな景色を見られないってことなんだ」
といっぺんに理解させられた景色だった。


明るい林道を歩いていたら、その時の気持ちが急にまた湧いてきた。
だからその気持ちのまんま、しばらく歩いてみようと思った。